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穏やかのゆくえ

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春が確実に近づいている。天気のいい昼に薄ピンクの服を着て元フランス疎開地を歩いていると中国にいる事を忘れる。オシャレなカフェやレストランが並び、オシャレな外国人がロードバイクを道端に停めてテラスでパンとコーヒーを食べている。

暖かくなってくると気分も自然と穏やかになる。気分が穏やかになるねと友達に言ってみたら「さりいはいつも穏やかじゃん」と言われた。

こっちにきてから自分が怒らない人間だなということに気がついた。怒らないし、ノーと言わないしあんまり汚い言葉を吐かないんだなと気づいた。

「さりいは優しすぎてかしこい子すぎるよ、わたしにはそれがさりいのいいところだってわかるけど良くない方に働くこともあると思う」

辛いものが食べれないわたしのために少しも辛くないよと注文してくれたプデチゲを辛いなと思いつつ食べていた時に真剣な顔で親友にそう言われた。

こっちでわたしの友達たちはみんな感情の起伏が激しい。ちょっとしたことでめちゃくちゃ怒るしその怒りを全力で顔や態度に出してくる。ちょっとしたことで喧嘩し始めるしちょっとしたことで仲直りする。まずい料理はまずいって食べないし嫌なことをされたら全力で相手に抗議する。

その代わりにちょっとした喜びや楽しさも全力で表現する。20代のいい大人が小学生みたいに表情をコロコロ変えて分刻みで怒ったり喜んだりしているのを見て最初はびっくりしたけどみんなとても魅力的に見える。

ネット掲示板で取引して携帯を買おうとしていた親友が、取引相手の対応の悪さに突然ブチギレし始めた。相手が自分の会社まで携帯を取りに来てくれというからそれならもっと安くしろと言ったら相手が怒ってしまったことに怒っているらしい。

説明を受けた後に「それでなんで怒ってんの?」と言ったらゆっくりの韓国語でもう一度説明された。うん、話は完全に理解してるんだけどそこにそこまで怒る理由がないんだけど、と言ったら「でた!さりいの優しすぎ!!」と言われた。もともとそんなに安く売って貰うんだし、通販とかでもなく個人取引で手渡しっていう条件のもとでやってるならどっちかが取りに行かなきなだし普通は譲ってもらう方が合わせるんじゃないの?値切って向こうを怒らせちゃったなら謝ればいいじゃん。と言ったらため息をつかれた。

「向こうが売りたいんだから向こうが合わせるべきだろ!」と行ったので「こっちが買いたいんだよ!」といったら全く納得していなかった。

さっきまで楽しくご飯を食べていたのに食べる気が失せたと箸を置いてイライラしていた。もう帰りたいと言い始めた。わたしはイライラすることがあるとしても一緒にご飯を食べている友達の前でそんな態度は絶対にしない。

この話をしながら日本でアルバイトをしていた時のことを思い出していた。

モノをモノの値段で売っているだけなのに必要以上の接客とモノ以外にずうずうしくいろいろと要求してくる客が大嫌いだった。

サンドイッチを売っているだけなのになんでこぼしたジュースを「拭いといて」といわれ、「片付けさせていただきたいので少し席を変わってもらってもいいですか?」と言ったら嫌だと言われるのかよくわからなかった。自分でこぼしたものは自分で拭くものじゃないのか?

「接客態度が悪かったからコーヒーを飲む気になれなくて捨てた、コーヒー代を返金した上で謝れ」と言われたこともある。接客態度が悪かったわけではなく、列が進まないことに怒ってきたお客さんに対して忙しい中でコーヒーをはやく渡したら「適当な対応をされた」と言われた。

コーヒーをコーヒーの値段で買ったんだからコーヒーを捨てようが飲もうが客の勝手だ。買った服を会計した店員の接客が気に入らないからその服を捨てた、返金しろなんてことがありえるはずが無い。

日本人がここにくると店員の態度にいちいち怒っているのをよく見るがこっちでのモノの売り買いはすごく理にかなっているような気もする。

客が食べたいからその食べ物をその食べ物の値段で買う。接客というものは特にない。態度が悪くて買いたくなかったら買わなきゃいい。食べられなくて困るのは客だ。

会計を終わらせるまでに店員が一言も発しないのは当たり前だし日本の超絶やる気ないコンビニ店員レベルのありがとうが聞けただけでも感動する。

どの接客が正解なのかはわからないけどわたしはこっちのやり方がわりと好きだ。働く側に立つと日本のやり方はあまりにも疲れる。

怒るという話に戻るが店員と客がめちゃくちゃ大声で揉めてるなんてのはよく目にする光景だ。地下鉄の中でもそうだしとにかく大声を出している人をよく見る。話を聞いてると意外と喧嘩でない場合も多いのだが如何せん感情表現が激しい。

こっちで出会う人たちに一番最初に聞かれる日本語は「罵り言葉教えて?」だ。日本語には罵り言葉という以外にしっくりくる単語がないのだが中国語にも韓国語にもそういう言葉の総称をさす単語がある。

そしてその罵り言葉もすごく多様なように思うし結構普通に使っている。

わたしは聞かれる度にいつも「わかんない、ない」と適当なことを言っているのだがたしかに韓国語の罵り言葉にしっくりくる訳がない。「くそったれ」とか「きさま」とかあるっちゃあるんだろうけどわたしは使ったことがほとんどない。というかきさまなんて口から出したことがあるだろうか?

なんでそんなに罵り言葉を知りたがるのか聞いてみたら相手に怒りを示すことがめちゃくちゃ大事だからだと言っていた。嫌な日本人にあった時にどうすんだよ!と言っていた。

わたしは多分嫌な韓国人に会ったら喧嘩しないで謝る。実際そういう人にあった事もあるし罵られたこともあったけど謝った。

韓国人のおじさんや男の人たちはほんとに口が悪い。ドラマの中だけだと思っていたら普通にみんな使うのでびっくりする。

それが怖いと話してみたところさりいも怒ったり大きい声出したりすればいいじゃんといわれた。考えてみたけど他人に大声を出して怒ったりした記憶がない。思い出せない。

じゃあ怒れることがあったらどうすんの?と聞かれたので一旦自分の中で収めて後でも友達に愚痴ったりするといったらめちゃくちゃびっくりしていた。

一昨日くらいに親友と仲良しののお兄さんがビビン麺ケチャップを入れるとおいしくなるかまずくなるかでめちゃくちゃ喧嘩していた。じゃれていると思って笑いながら見ていたら本気で喧嘩し始めて口をきかなくなった。

さりい!どっちが悪いと思う!?と聞かれてなんでそんなに怒ってんの?といったらだってむかつくじゃん!絶対まずいのに!と言っていた。

2人はその後仲直りして一緒にケチャップいりのビビン麺を食べていた。

さっきまであんなに反対してぶち切れていたのにおいしいおいしい!と笑顔を爆発させてご飯を食べる親友は魅力的でとてもかわいかった。

そしてその間わたしはずっと蚊帳の外だった。

わたしも大人で冷静でいることに重点を置くことなんかよりも感情を爆発させられたらどれだけ魅力的になれるだろうか。